女性向けメディアのwebディレクター。一見するとなんとも華やかにもみえるこの職業だが、実際には泥臭い、地道な業務も数多く存在すると、今回インタビューしたT.W.さんは語る。
今回は某事業会社にて女性向けメディアの運営にwebディレクターとして携わるT.W.さんに、実業務で感じる難しい点や、サービスを企画する上では重要な「ペルソナ設計」についてお聞きした。
T.W.さん
某女性向けメディアを担当するwebディレクター。大学時代の専攻とは全く異なった道にキャリアを進めるも、その成果が認められ、企業内で表彰された経験もあり。特にサービスのペルソナ設計に強みを持つ。
T.W.さんの経歴
2017年3月 | 4年制大学、経営学科を卒業 |
2017年4月 | 女性メディア運営会社に入社。webディレクターとして働く |
大事なのは、ただ単に「話す」のではないコミュニケーションの仕方
―― まずは簡単に今までのご経歴を教えてください。
T.W.さん:大学時代に経営学を専攻しておりまして、2017年から事業会社にて女性向けメディアのwebディレクターとして勤務しています。
―― 現在の業務で難しいと感じることは何ですか?
T.W.さん:結構あるんですがやはり人間関係ですね。
デザイナーやエンジニア、マーケターを社外のリソースを使わず、社内で内包する。このようなインハウス化は近年、事業会社では多く見られるようになりました。弊社においても例外ではなく、このインハウス化は採用されてます。自社のサービスへの理解が深いメンバーで業務に取り掛かることはできるので、PDCAも早く回すことができ、コミュニケーションの質も向上すること等が利点として挙げられますが、結構ややこしいなと思うこともあったりするんです。
関わる人間が全員社内にいるので、何か問題が起きたときに社内で大々的に話にくいというのがわかりやすい例ですね。例えば、デザインの制作を社外に依頼している場合は「このデザイン、もう少しこうしたい、このサービスのコンセプトってまだ理解されてないからやり直し頼もう。」みたいな会話、依頼もできると思うんですが、対象者全員社内にいるので、伝え方を一歩間違えると、人間関係に亀裂を生んでしまうこともあります。相手の気分を害さずに依頼をする工夫や、関係値の構築はかなり大変です。
―― 人間関係の構築が重要であることは分かりました。逆にその関係値が構築できていないと、どんな問題が起きるのでしょうか?
T.W.さん:私の企業では私が担当しているサービスのほかにも、いくつか別のサービスが展開されていて、それらすべてのwebサイトの作成、調整を社内のクリエイター部隊が対応してくれるんです。もうなんとなくわかるかもしれませんが、マンパワーが不足してしまうこともあります。そうした際に良好な関係値がないと、対応後回しにされることとかもあるんですよ、意外と(笑)。
自分の担当領域で何かしら問題が発生した際、すぐに対応してほしいのに、その部隊が別のサービスにかかりきりになってしまっていることも珍しくないので。そういったことを出来る限り避けるためにも、日々、関わる人とは良好の関係値を構築していくことが大切なんです。
―― 確かに自分のやりたいことのみをお願いして、その結果業務が滞ってしまっては元も子もないですね。良好な関係作りのためにT.W.さんが意識していることは何ですか?
T.W.さん:出来るだけ詳細な工数やKPIを共有しておくことを私は意識しています。スケジュール感を事前準備の段階で明確にしておくことも、頼む相手にとって急な依頼にならないように計らう大事なことなので。
密にコミュニケーションをとることが正義、ということも多く聞くことではありますが、そういった接し方を好まない人も一定数いらっしゃいます。そういった方にもしっかりと私たちのやっていることに協力してもらうために、具体的な数字など目に見える形でのコミュニケーションの材料を用意しておくことも重要なんです。
ただ作業をしていると思わせないことも大切です。依頼したものを作ってもらっているだけというでは頼まれる側も「自分たちは使われている。」と思ってしまいます。 各メンバーが作成したクリエイティブがどれだけサービスに寄与したかの日々の数値報告はもちろん、全社に向けて各メンバーの活躍を伝え、テンションを維持し続けるのも我々のようなwebディレクターの大きな役割だと思いますね。
事業側のペルソナ設計。「1人の人間に届かないものが、多くの人に届くわけがない。」
―― もう少し普段の業務に踏み込んだ質問をしたいと思います。事業会社のwebディレクターは上流~下流工程、幅広い業務に携わる印象があります。その中でもT.W.さんが特に自分の強みだなと考える工数はどの部分でしょうか?
T.W.さん:私の強みはペルソナ設計にあると思っています。昔から人間観察が好きで、よく街を歩いている人はなんで今この時間に、ここを走らないで歩いているんだろうとかよく考えてたりすることあったんですよ(笑)。その場面の一部始終から、その人の人生の背景なんかも想像したりして。そういった自分の生まれながらの考え方と、仕事をする上でのペルソナ設計にも共通点があり、感性を活かしつつ仕事に取り組めている気がしますね。
ペルソナとは?
ペルソナとはサービスや商品などを利用する典型的なユーザー像のことで、マーケティング等において活用される概念。
よく混在されるターゲットとの違いは、ターゲットは例えば40代女性、20代男性といった漠然としたものに対して、ペルソナっていうのはもっと細かい印象です。 この人はどこで生まれて、どういった環境で学生時代を過ごし、今どんな働き方をしていて、恋愛の価値観はどんなものを持っているかなど、どんな経験をして今まで生きていたのかを事細かく設定して、一人の人生設計を組んでいきます。
―― そんなに細かいところまで設定するんですね。かなり時間を必要とするイメージです。なぜペルソナ設計にそこまでの工数を割くのでしょうか?
T.W.さん:サービスを本当に必要としてくれているユーザーに届けなければいけないという点は、CVに繋げるという点においてかなり重要だと考えるからです。
サービスを届けたい層がそもそも間違っていては、せっかくいいサービスなのに魅力に思ってもらえないし意味がない。
例えばですけど、30代女性、ダイエットしたいユーザーをターゲットにして、トレーニングジムのwebサイトを運営している場合、「読むだけで痩せる」という本を訴求するか、「ジムで専任のトレーナーがつく」というプランを訴求するかによって、ペルソナ像は大きく変わったりするのもあったりして、同じ訴求すべき層であっても、自分たちのサービスを利用してくれている人物像が鮮明になっていく。
その結果webサイトの作り方、広告の出稿先などの判断に活かせたり、他社との差別化にも繋がるんです。よりCVに寄与することができるんですよね。
自分の中で大事にしている言葉があって「1人の人間に届かないものが、多くの人に届くわけがない。」です。1人のことすら深く考えられていないサービスが、多くの人に届くことはないと思っています。
あとはそのペルソナに対して、仮説と検証を繰り返して、より内容をブラッシュアップしていくことも大切です。とにかく色んな人の意見を聞いたり、ペルソナとより近い人と話したりして、自分の中のペルソナ像を明確にしていき、サービスのwebサイトにそれが本当に反映できているか、GAを使ってPVやエンゲージメント時間等と照らし合わせながら改善していくのを何度も何度も繰り返す。結構地道な作業なんですよ、ただそれがすごい大事なことなんです。
webディレクターは掛け算の仕事。それがわかったからこそ0から1を作りたい
―― 今まで仕事をしている中で特に印象に残った出来事、学びに繋がったことがあれば教えてください。
T.W.さん:二つあります。どちらも入社して間もない頃の話ですが、一つ目は、本当に人手が足りないことがあって、その時に独学でhtmlとcssを勉強したことです。特にクリエイティブ領域の専門学校に行っていたわけでもないので、全部独学でした。これはただ楽しかったけどキツかった~って思い出 ですね(笑)。
もう一つはある著名人の方にご協力いただいたwebサイトを制作しているときのことです。それこそペルソナ設計について勉強真っ最中の頃でしたね。Webサイトを分析、根拠のある仮説をもとに改善していくにつれてどんどんアクセス数や、CV率も増えていったんです。
そこで、ディレクターって誰かが生み出したものを、さらに角度高く仕上げていく仕事だと思ったんです。1のサービスや商品に対して掛け算的にディレクターが携わり、さらにグロースさせていくみたいな。自分のやっていることが数字となって表れて、サービスが多くの人に認知してもらえることを実感できたのは素直にうれしかったですね。
―― T.W.さんが今後どのようなキャリアを描いていきたいか、また、大事にしてきたい想いを教えてください。
T.W.さん:自分の掛け算の数を増やしていきたいですね。今は×2のような小さい数字でも、今後は×3、×4と…。
私は何かに一つのことに特化してスキルを伸ばすことが苦手なんです。色んなところに興味が行ったり来たりしてしまうので、あれも身に付けたい、これも身に付けたいってなるんですよ(笑)。
ただその分、みんなでサービスを大きくするときはその中心にいる人材になりたいです。エンジニアのスペシャリスト、デザイナーのスペシャリスト、そういった各領域のスペシャリストの人たちをアサインして、一つのことに取り組めばいいものができるはず、そう思うんです。
そんな人たちをまとめる、おこがましいかもしれませんが、私がいるから協力してくれるみたいな信頼を得られる人材になりたいと思っています。
また、クリエイティブ職のような 、本当の意味で0から1を生み出す側にも将来的にはチャレンジしていきたいとも思っています。
いくら掛け算の倍数が大きくても元の数が0だったら、いくら掛け算しても0のままなんですよね。今いる会社の枠から外れたとき、別の会社や個人としても数字に繋がるサービスを企画できるようになりたいと思っています。
その時に忘れたくない、大事にしていきたいのが、どちらの立場であっても、お互いにリスペクトし合う気持ち。自分もどちらの側にもいた経験から、1人で進めるんじゃなくて、一緒に案を出し合いましょうくらいの気持ちで、良いモノは積極的に取り入れていきたいと思っています。
―― ありがとうございます。それでは最後に自分と同じような仕事をこれから目指したいと思っている人たちに向けてメッセージをお願いします。
T.W.さん:世の中のすべてのモノから学んで、実践していってください。最初は真似することでも構いません。世間一般的に認められているものを自分なりに解釈して
、どうしてヒットしているのか?じゃあ自社のwebサイトだったらどう表現できるのか?という風にどんどん吸収してほしいです。
そこで自分はwebサイトやってるからって、その範疇に固執する必要はないと思うんですよね。ゲームアプリとかからアイデアもらってもいいと思うんですよ。こんな感じで世の中のすべての、何か真似したいと思えるものから盗んで真似していく。
いろんなものを使っていくと、自分の今まで知らなかったクリエイティブとか、物事の仕組みとかに出会えると思います。そういったものをどんどんインプットしていって、アウトプットしていってください。 アウトプットの時に、自分がこれがいい!と思うことのみを優先するんではなくて、それこそ前半にお話したペルソナ設計みたいに、自分たちが届けなきゃいけない層に刺さるものは何なのか?の視点もしっかり持ちつつ、今までインプットで溜めに溜めた自分の引き出しから、最適な答えを出せるようにしてほしいですね。
インタビューを終えて
今後は企業という枠を超えて活躍の幅を広げていきたいというT.W.さん。今回お話を伺ったすべてから「関わる人のため」という強い思いが垣間見えた。数字を意識しつつも、その対象となる人々のことを決して忘れない。そういった思いがあるからこそ、携わったサービスも成功を収めているのだろう。そんなT.W.さんの今後の活躍にぜひ注目していきたい。
たんぱんライフでは今後もインタビューを実施していく。そこで語られる様々な人の生き方や、考え方に触れてもらいたい。